●山下さん(仮名)のケース
岡山の建場(チリ交が生活している会社のプレハブ寮)に2・3か月に一遍、本を買いに行っていました。
朝、本人の許可をもらって彼の部屋で「生き本」の計算をして、夕方の帰りを待ちます。
通称タッちゃんは、私から本の代金をもらって(=本代として)ニコッとして、奥の部屋にあるのも見てくれたかとたずねてきた。あ、そこにもあったのかと急いで本を見て値段をつけました。
私が7,000円ほどの値段を付けたところタッちゃんはあろうことか5,000円札をとってこれから遠いところに(岡山→松山)帰るのだから何かうまいものを途中で喰ってくれと渡すのです。
勿論受け取れません。
私がもらった金で買い物―夕飯を買いに行きました。タッちゃんは夕飯の支度です。
やがてその飯場の若い連中がなけなしの金を近くのパチンコ屋ですって2~3人帰ってきました。
タッちゃんはその人たちにごちそうをふるまっているのです。どうしてふるまうのかと尋ねたところタッちゃんは「この人達がいるから私もここで働けるのだから」というのです。
タッちゃんはほんとうにやさしい人です。私もタッちゃんの人間性に興味を持ち、今までの過去をつい聞いてしまいました。
九州を出て千葉県のコンビナートの製鉄所で働き結婚しました。その会社の合理化で首を切られました。
仕事も探したがありません。それで盗みのグループに入ったのです。車の免許証はなかったので、盗んできた盗品の売買役をしていました。
その時には離婚していて、子供はタッちゃんが引き取っていました。
タッちゃんがいうには、こんなことをしてはいつかは捕まる、そしたらこの子は困ると考えたそうです。
それで「盗人のグループに手紙を書いて、その場から広島県福山市に息子ひとりを連れて行った」ようです。
すると親切な人がいてリヤカーを貸してくれたそうです。
商店街などでは梱包していた商品をひらけた後の段ボールの処理に困っています。それを回収して、現金をえていたのですが、子供連れのリヤカー引きということで地元新聞に大きく載ったそうです。これがイヤになって福山を離れたそうです。
それから倉敷に来て川辺で小屋で暮らしていたところ、周辺住民の通報で警察が来て保護されたそうです。
警察は車の免許を取らせてくれる故紙原料問屋を紹介してくれたそうです。それでチリ交をしてきた。
この話を聞いて、あれこれするうちに夜も遅くなり帰ろうとすると、またしてもビックリするような発言がありました。
「今まで何回も古本屋に本を持って行って買ってもらったが、顔も見てくれなかった。古本屋の主人がこのように私と話してくれたのは今日がはじめてです」
私はこの時はじめて「お客様は神さまです」という定式の意味が分かったような気がしました。
古本屋には二つの仕事の側面があります。すなわち「売買」です。この双方を大事にしていくことが大切です。
売買は一瞬にして決まりますが、そこに人間的な交流=感動がないと長続きはしません。
古本屋の買取値はその店の考え方次第です。価格が決まっているものではありません。
チリ交の本を買うことは、仕入れの源流です。ここに信用をどう根付かせていくのかは古本屋の器量です。
資本が少ない古本屋と何も持たないチリ交の熱いドラマは今も続いています。
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