お宅に訪問してびっくりすることがあります。松山にある病院です。
一階はさすがに診察室であって整然としていますが、2,3階は廊下にまで本がはみ出しています。
本への思い込みは強く、どんな分野にも手を出しています。
推理小説・SF・小説一般何でもござれの人でした。
これはと思う本は全部買ってしまう性格でしょうか。専門の分野は能楽書籍の蒐集家です。主食はさておいて、オヤツの本は今回かなり出していただきました。4,5回の搬出でした。
先生は毎回顔を出して本の解説をしてくださり、勉強になりました。そして共通の話題にも花を咲かせたのです。それは大萩さんのことです。
私は「オイハギ」さんとも何度かお会いしましたが、先生のオイハギさんへの視点とはちょっと違います。
オイハギさんはセドリ屋で店舗なしで食ってきた人です。えらく俳句に詳しい人でした。これは多分、40~50年前、松山で当時のSOGOや三越で大古本市をやった時に、彼がその中心におり、目録をつくった人でしたから、先生とオイハギさんは知り合いとなったのでしょう。
沢山の古本屋がありましたから、彼はそこでセドリをやるわけです。彼は関西はもとより、九州にまでセドリに行きます。腹巻の中に万札を入れているのはバクロみたいでした。十分な知識と度胸がないと、これはやれません。高度成長のときでしたからセドリがやれたわけで、現在のデフレ下ではできません。
俳句に精通していた理由には怪しいものがあります。うわさですが、彼は特高あがりの人物です。昭和俳句弾圧事件に彼がかかわったのではないか、という疑いがあります。が、これは全く私の仮説であり、デッチ上げかもわかりません。
これにかかわったということにすれば、特高から古本屋のセドリへの変化はいくらかのロマンとなりはしないでしょうか?昨日まで新興俳句を弾圧していた人間が、そこでの知識を利用して商売換えをやって成功した数少ない一人です。
44名が検挙され、そのうち13名が懲役刑を受けている事実に彼は何と言うでしょうか。聞いてみたかったのですが今はもういません。
今Net社会で、セドリが横行しています。これは昔から古本屋の業界にあった常識です。
古本屋は他の古本屋からセドリをします。これは自分の店の品揃えとして、よりめずらしい本を並べて品格を上げていくためです。これは売れるぞと見込んだら、2倍、3倍の値段をふっかけて棚に置いとけば売れる世界なのです。古本屋にしてもお客さんから安く買っているのだから利益は出ます。
サラリーマンをしている人でも退職後は古本屋をしたい人がウヨウヨいました。これはと思う本は売れます。
少しがんばってデパートで古本市をする時には、めずらしいもの、高いものは他の仲間や懇意の古本屋から借りてきてでもリストに載せておきます。デパートのほうも曲者でして、高い売り上げがない場合にはその有利な地位を利用して「売り上げが少ないので次はありません。担当者として私個人が責任を負います」と圧力をかけてきます。
そうなると古書組合やデパートで古本市をやる業者はやってはならないことをします。それが赤伝票です。―売り上げがないのに、あったことにして売上金を納めます。
これは公正取引法違反です。暗黙のルールとなっていますが、不正とワイロです。
Amazonで買う場合にわざわざ「倉庫に保管しているので商品の到着は1週間ほどかかる場合があります」と書いている古本屋がいます。これはセドリだと思っていい。しかし、合法です。
セドリは一般論として考えると、国と国の二国間貿易そのものです。こちらの国ではありふれて安いものがあちらの国では高いものだとわかると、そこにビジネスのチャンスが生まれます。
香港のとなり、中国の深圳市は、世界中からセドリ屋が集まっています。深圳で買って香港や日本で売れば利得があります。
かつてソ連邦が崩壊した1990年代のソ連はセドリ屋だらけでした。欧米で買ったGパンがソ連国内では10倍以上で売られます。出入境管理事務所は取り締まりをしますが、効果は上がりません。オフィサーにワイロが送られるからです。
そのうち、ロシア国内でもそっくりさんが製造販売されてきます。どこかで為替レートが落ち着き、平準化されていきますから、いつまでも甘いミツは流れません。それでも毎日、石油・ガス・工業製品はセドリがつづけられ、私達の生活は成り立っています。
セドリは古本に限らず全世界で行われている日常です。この競争に勝たねば市場の敗北者となります。セドリで成功するということはじつに大変なことなのです。
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